最高裁判所第二小法廷 昭和42年(オ)1239号 判決 1968年3月08日
上告人
福江健一
代理人
宮内勉
被上告人
カバヤ販売株式会社
代理人
西阪幸雄
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人宮内勉の上告理由について。
原審(引用の第一審判決を含む。以下同じ。)の確定した事実関係のもとにおいては、被上告人が訴外光野商事株式会社との間に第一審判決事実摘示第三(2)(イ)ないし(ホ)の同会社所有の不動産五筆についてした代物弁済予約および上告人との間にその所有の本件物件(一審判決別紙目録記載の各不動産)についてした代物弁済予約が、名は代物弁済予約であつても、予約完結権の行使によつて、目的物件の所有権の移転とともに直ちに一定の債権額の消滅をきたすものではなく、完結権の行使による目的物件の所有権取得後にこれを評価または換価してその額を債権の弁済に充当し、過不足があればその清算をすべき性質のものであつた旨の原審の判断は是認することができる(昭和四〇年(オ)第一四六九号同四二年一一月一六日最高裁判所第一小法廷判決・裁判所時報四八六号一頁参照)。そして、右会社所有の前記不動産五筆についての予約完結権行使当時不動産の価額が同会社の被上告人に対して負う債務額にはるかに及ばないものであつたことは、原審の確定したところであり、しかりとすれば、被上告人は前記不動産五筆について予約完結権を行使した後において、さらに上告人所有の本件物件について予約完結権を行使しうるものというべきであり、これと同趣旨に出た原審の判断は相当である。論旨引用の各判例は、いずれも民法上の代物弁済の予約またはその停止条件付契約がなされたと認定された事例に関するものであつて、本件とはその場合を異にし、本件に適切ではない。したがつ、論旨は採用しえない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 色川幸太郎)